伊勢物語の注釈書。三条西実隆講清原宣賢聞書。三条西実隆が大永2年(1522)に講義したところを清原宣賢が聞き書きしたものにもとづく。
実隆が目を通し、奥書を書いた本が実隆の子公条のもとにあったが、紛失したため、天文6年(1537)に書写した本から宣賢が写したもの。
宣賢自筆本は天理大学附属天理図書館に所蔵されており、同館善本叢書『和歌物語古註集』に影印されている。
本文庫本は、清原宣賢の筆跡の趣を残しており、宣賢自筆本からの転写本と見られる。
改装水色表紙(縦22.2cm×横17.7cm)。外題、題簽に「伊勢物語惟清抄全」と墨書する。巻首に、大永2年5月に逍遥老人の講義を聞いたものであることを記す「林―鐘庚寅金紫光―禄大―夫拾―遺宣―賢自序」で終る漢文体序1丁あり。内題「伊勢物語 以逍遥院御講私抄之 環翠軒宗尤」。四周墨界(縦18.9cm×横15.1cm)。半面12行。朱句切・朱引・朱濁点を加える。
序とも91丁。巻末に次の本奥書あり。宣賢自筆本と同じ
であるが、付訓があるので、引いておく。
去大永二年夏五月五日逍遥院「堯空俗内大臣/実隆公也」(二行割り)此物語御/講説ノ之時予(左傍「ワレ」)侍ヘテ(二)末座ニ(一)聞(二)書之ヲ(一)不レ漏(二)一句ヲ(一)不レ違ヘ(二)一辞ヲ(一)即御奥/書賜レ之別本有之以(二)其聞書(一)只今書之
天文十七年六月一日終筆 環翠軒宗尤判
/逍遥院御奥書/右加一見老懶僻案之臆(左傍「ムネ」)―説不レ漏(二)一事(一)載而抄スレ之恰如破/竹如瀉水却雖有耻来儻同志ノ者ハ須スレ潤色ス之ヲ一名曰/惟清抄不レ可レ出(二)窓外ヲ(一)而已
大永壬午暦重陽前一日/槐陰贋(左傍「イツワル」)〓(右傍「蒭イ」) 堯空誌六十八歳
/権大納言公条卿逍遥院嫡男御奥書後任右大臣号称名院/右一冊先考奥書之本不慮ニ紛失ス今更ニ書レ之云々此物語/京極黄門ノ奥書ニ先年所レ書之本為レ人被(二)借失(一)重書レ写之ヲ旨被レ記之了蓋於此抄亦謂之乎
天文第六臘月十八 亜槐都護郎 御判
自筆本と本文を比べるに、本文の字配りは異なっている。自筆本12ウに「照明院御講」とあって、別筆で左傍に「称名」と記す部分は「照明院」とのみある。
注目されるのは同筆の付箋が多いことである。「称名院ハシメテ御覧シイタス也」「私云」などと見える。
巻尾に一条家と在原家の系図を貼付する。 |