信長記(のぶながき、また、しんちょうき)
『信長記』には、ここに画像化した太田牛一(1527〜?)撰の『信長記』と、小
瀬甫庵(1564〜1640)撰のそれとが存する。前者は史実を重んじ、後者は儒
教的立場から増補潤色した書と捉えられている。前者の太田牛一撰本には、
十五巻本と、後にこれに首巻を付した十六巻本とがある。田中久夫「太
田牛一「信長公記」成立考」(『帝国学士院紀事』五-二、三 1947・11)が、
太田牛一撰本を『信長公記』、甫庵撰本を『信長記』と呼び分けてから、これ
が広く行われて来たが、岡山大学池田文庫等刊行会編『信長記』(福武書
店 1975・4〜8)別冊、石田善人『信長記十五巻解題』は次のように呼び分ける。
甫庵撰
甫庵信長記
牛一撰 十五巻本 信長記
十六巻本 信長公記
阪本龍門文庫本は、牛一撰十五巻本の江戸初期転写本である。自筆本である岡山大学池田文庫本と本文を比べると、記事の内容に異なるところはないようであるが、池田本の補入本文を本行に写し、用字・仮名遣い等に異同が認められる。稀に誤写も存する。池田文庫本と同じく、巻十二は十六巻本信長公記の目録と本文を持つ。
綴葉装、十五帖。原装水色表紙(縦25.0cm×横18.0cm)。外題、金雲母引題簽に「信長記(一)」と墨書する。
厚手斐紙。半面6行。朱句切・朱引を加える。奥書等は画像に見る通りである。本書には所々に5mm前後四方の不審紙(白色楮紙)が付されている。剥がれて貼られていたところから離れてしまい、のどの部分に挟まっているものもあるが、文字にかかっているものを次に示しておく。
巻五 13オ4 築地を
巻九 6ウ4 候てハ
20ウ1 岩あり
巻十 10オ4 佐野之
巻十三 24ウ4 御請を
30オ2 当番 & 32ウ4 両国
巻十四 44オ1 構へ
56ウ2 ら(被)遣 56ウ3 留をかせ
56ウ3 下ヽ(候)也 58ウ1 社頭
不審紙を付した意図は未詳。右のうち、「岩あり」(20ウ1) を池田本は「巌」に作り、「留をかせ」(56ウ3)を池田本は「止」に作る。なお、巻一13オ5行目末に文字らしいものが見えるのは、剥がされた付箋の裏の文字が残ったもののようである。
用字では、池田本が「●候」とするところを、龍門本が「伺公」に作り、池田本が「◆
」を中心に「陣」「陳」を併用するのに対して、龍門本が「陣」で統一している点などが目立つ。仮名遣いでは、龍門本は格助詞「へ」の表記に「へ」とともに「江」を書くことが少なくないようである。
なお、本文庫は小瀬甫庵撰『信長記』寛永中整版十五巻八冊を所蔵する。
●は 「示偏」に「弓のしたに一」のひと文字
◆は「阜偏」に「斗」のひと文字
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