熊野権現影向図
檀王法林寺所蔵
絹本著色 114.0X51.5cm
画面中央、金色の輪を背にした阿弥陀如来が湧雲の中に姿をあらわす。右下には鳥居が立ち、その近くで四人の男女が阿弥陀を仰ぎ見ている。一見、定型的な阿弥陀来迎図のようだが、本図は熊野権現が影向した場面を描写したもの。熊野権現が阿弥陀如来の図像で示されるのは、本地垂迹説に由来する。
画面上方の色紙形には、遠路を越えて熊野を詣でる者たちの目前に、雲中から神が現れて、極楽往生が決する旨が墨書される。円覚寺僧・南山士雲(1254-1335)による着賛。文末の「己巳年孟秋」は元徳元年(1329)七月のことであり、これが本図の制作時期を考える上で指標となる。
賛文に従い、画面右下に影向の目撃者を描く点において、本図は「説話画」である。と同時に、画面中央に熊野権現=阿弥陀如来が大きく配し、本図の観者はそれを正面から拝する構図をとることから、「礼拝画」であるとも捉えられる。「語り」と「祈り」――二つの機能を兼ね備えた本図は、現存する垂迹画のなかで屈指の名品と称されるよう。
かつて本図は画面全体に横折れ、糊浮き等がみられたが、平成九年(1997)度に修理が施された。ここに掲載するのは修理後の写真である。