高津柿本神社所蔵資料電子画像集
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水田長隣 奉納百首和歌



外題:奉納百首和謌  内題:奉納百首和歌
数量:写本一冊  寸法:縦18.5×横25.0cm
装丁:列帖装  表紙:緞子(えび茶地紺縞)
料紙:鳥の子  見返し:金泥
丁数:全四十四丁(うち遊紙 前一丁・後十一丁) 一面六行
 奥書に「右百首和歌者石州高角鴨山/柿本大明神之広前奉納之者也。/享保八癸卯歳弥生十八日 [洛]不遠斎長隣/謹勤之(壺印「盈?」) (陰刻方印「尾崎姓」)」とあり、本文も水田長隣の筆と考えられる。
 宣命体による序文を持ち、百首和歌奉納の由来を記す。それによると、この年享保八年(1723)の柿本人麻呂千年忌にあたり、人麻呂に正一位が 諡られたことを受け、奉納された和歌であるという。この序文は、奥書にある日付と同日、すなわち千年忌の当日付けで玉木正英によって記された ものである。玉木正英は江戸時代中期の神道家で、正親町公通に入門し垂加神道を学び、橘家神道を大成した人物。
 本百首和歌は、京都の歌人・水田長隣が、その門人・知人に歌を依頼し、高津柿本神社に奉納したもの。頭字(各歌の最初の文字)に人麻呂の 神詠「ほのほのとあかしのうらのあさきりにしまかくれゆくふねをしそおもふ」(古今・409)の各文字(32字)を置いて歌を詠じることを三度 繰り返し、最後に「ひとまろ」の文字を置いた歌を詠じて計百首とする。各歌は二行書きで、その前行には歌題と作者の姓名が記されている。 この姓名から、享保八年時点における長隣の門人、交流の範囲が分かる。
 長隣作の巻頭歌(歌題「早春」)は「ほのゞゝと岩根かすみて鴨山の神も時にあふ春はきにけり」とある。これは『万葉集』の人麻呂作歌 「鴨山の岩根しまける我をかも知らにと妹が待ちつつあるらむ」(巻二・223)および神詠「ほのぼのと」の歌を本歌として、人麻呂に正一位が 諡られたことを慶賀する。その歌の脇には自ら「此初句雖有恐、幸保之字依戴、置之。多罪々々。」と注記し、人麻呂の神詠「ほのぼのと」の歌と 同じ初句の歌を詠んだことを恐縮しているが、敢えて神詠を侵し詠んだところにこの奉納百首に寄せる長隣の気概を見るべきであろう。

解説:奈良女子大学大学院博士後期課程 大石真由香

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