5巻5冊。ただしこの現資料は取り合わせ本で,巻1・巻2・巻5は元禄
5(1692)年版(内題「女重宝記」),巻3・巻4は元禄15(1702)年版(内
題「新板増補女重宝記」)である。以下,この取り合わせ本に即して解
説する。
“重宝記”とは,日常生活に役立つ知識や身につけておくべき教養を
項目ごとにまとめ平易に解説した百科事典風の書物。江戸幕府の成立か
ら百年近くがたち,いわゆる元禄文化が花開いた元禄頃から,数多く刊
行された。『女重宝記』(元禄5年刊)や同じ著者の『男重宝記』(元
禄6年刊)はその代表的なもの。当時の庶民の知識や教養の一端をうか
がうことのできる書物である。
『女重宝記』の具体的内容は,次に掲げる同書の目録からほぼうかが
うことができよう。(読み易さを考えて,一部平仮名を漢字に,漢字を
平仮名に改めたところがある)。
- 一之巻 女中万たしなみの巻
- 女ハ人間のはじまりの事 身の養生ならびに四火の灸の事 女品
定め付たり風俗の評判 女疵瑕物がたりならびに諸芸たしなむ事 女
ことばづかひ付たり御所大和詞祝言忌詞 女化粧の巻 衣類の沙
汰ならびに当世染様の噂
- 二之巻 祝言の巻
- 祝言の次第 嫁取言入ならびに日どりの事 祝言道具の次第
おなじく座の次第并盃のしやうの事 式三献の事并銚子加へのしや
う 手がけ引渡しならひに色なをしの事 祝言の夜膳部食い物の次
第并ニ図 饗膳の図・七五三の図・引渡しの図 御厨子黒棚飾り
様の事并図 手の道具飾り様の事 酌加へしやうの事并銚子提子
の図 常の羽觴にて酒のミやうの事 女中よろづ喰方の作法
- 三之巻 懐妊の巻
- 懐妊の事ならひニ養生の事懐妊か懐妊にあらざるをしる事 お
なじく身の持やう并ニ食物のよしあし喰ひ合せの事 おなじく帯を
する事付日取り胎内さがし 産のとき向ひてよき方の事 おな
じく忌むべき衣装并ニ忌むものゝ事 知死期繰り様の事 産前に
こしらへをくべき物の事 産にのぞミて心得の事 産後養生付
食物のよしあしの事 女の年により産よしあしの事 月により
生れ子よしあしの事 難産の妙薬并ニ灸法の事 産後乳腫れ痛む
薬并乳の垂る薬まじなひ 生れ子の次第 生れ子養生の事
女中方服忌令の事
- 四之巻 諸芸の巻
- 手習ひの事ならびに文書く事 歌をよみならふ事付たり歌書作者をし
る事 琴を弾ずる事并に名をしる事 貝覆ひ歌かるたの事 香
をきく事付たり十火主香 掛香の名方 伽羅の名ならびに薫物の方
女中諸病妙薬秘法 万染み物落し様の事
- 五之巻 女節用集字尽
- 女用器財之部 同衣服之部 同絹布之部 同絹布染色之名
同詞字等類ならびに正字 源氏物がたり目録 かなつかいをしる
事 五節句の事付たり亥子の事 新大和言葉ならびに物の唐名 小
笠原流万包やう折形の図
著者は,苗村丈伯(なむらじょうはく,生没年未詳)。丈伯は通称で,
字は三徑,号は林案・苗斎・艸田斎(子)・寸木子・徑山子など。自序
の署名「艸田寸木」は苗(艸+田)・村(木+寸)の二字を分解したも
の。17世紀後半に,『女重宝記』『男重宝記』をはじめとする啓蒙的な
書物を数多く刊行している。
なお,元禄5年版『女重宝記』は,『女重宝記・家内重宝記』(近世
文学資料類聚・参考文献編18,小川武彦解題,勉誠社,1981年)に影印
されており,また,『女重宝記・男重宝記』(現代教養文庫1507,長友
千代治校註・解説,社会思想社,1993年)に翻刻されている。
神戸大学国際文化学部講師 宇野田尚哉
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