解 説
第一巻外題は「つぼのいしぶみ」、8編13巻13冊、元禄11(1698)年2月刊、江戸の書肆
、松会三四郎から出版された女訓書。挿絵入り。江戸初期の成立とされるお伽草子『つ
ぼの碑』とは異なる趣旨の女訓書。著者は不明とされていたが、影印本が『江戸時代女
性文庫』36(大空社)に収録され、中野節子の解題に著者・内容ともに詳しい。中野の
『考える女たち』(大空社、1997)でも『壷のいしふみ』について展開し、著者が、熊
沢蕃山の末子であるとした。本文にはしばしば蕃山の著作『女子訓』との役割の違いが
述べられている。
13巻は以下の8つの題名に分かれる。
帰雁の文 上・中・下(一〜三巻)
介婦のをしへ 上(四巻)
慈母嘉言上・下(五〜六巻)
躾乃帖(七巻)
賢女貞女乃判(八巻)
貞女烈女乃判 上・下(九〜十巻)
似せものの判(十一巻)
或人の尋 上・下(十二〜十三巻)
「帰雁の文」上巻に全体の「凡例」と「序」があり、著者による八巻の構成が述べられ
ている。各巻の冒頭には詳細な目次がついている。
前半は読本としての性格に留意して、読み方について「やはらかにやさしく」音読すべ
きことや評論との違い、「男文字」=音読みとの違いなどの留意点が指摘されている。
また女訓ものとして本書を書いた狙いとして、漢字=男文字では四書五経小学などの古
典はすでにあるが、これらは一般の女にとって難解であることに加え、モデルとなる女
性や物語が中国古典の事例であり、「からめいたる事」である点を批判している。源氏
物語などを引用紹介する意図は、物語のように聞かせて下層の女性にも興味を惹かせる
ことと、日本の習俗・物語に慣れ親しむという意味があるとする。特に「或人の尋ね」
は、著者の朱子学者としての考え方が随所に展開されており、書著の思想を考える上で
興味深い。