奈良女子大学学術情報センター |
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本 文 |
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翻刻文の作成については、本学文学部
学生相川純子さんの協力を得ました。
解 説題簽「産屋やしない草 」、本文31丁、自序、抜文、本文による構成。賀川玄悦(阿波藩医)の序文(安永4(1775)年10月)、その養嗣子、賀川玄迪による後序。但し本学所 蔵の資料では、本来冒頭に位置するはずの玄悦序文は、本文の「産屋やしなひ草大尾」 と書かれた後に挿入されている。
作者の佐々井茂庵は生没年不詳、名は玄敬。通称茂庵。安永〜文化(1772-1818)頃の 医者。泉州堺の出身で初め足立栄庵に医を学びのち賀川玄悦に産科を学ぶ。他の著作とし ては、中国医書の翻訳書「こやすのき」(文化4)がある。(『国書人名辞典』)
自序によれば、寄寓していた高木嘉介に、賀川門下として産前産後の心得を婦女のため に仮名書で記してはどうかと進められ、求めに応じて口述していたが定本を作る必要が 生じ、玄悦もこれを進め内容も補填し、序文・題名も玄悦老先生につけてもらった、と ある。読者の対象者は、京都市中の比較的富裕層。
内容は、産前の心得8条・臨産の心得9条、産後の心得18条からなる。産前の心得で は懐妊中の性交渉を避けること、腹帯を強くしめることの弊害、6〜7ヶ月以後の妊婦 の入浴についての注意、食事、寝る姿勢などの俗説を批判する。「懐胎は病にあらず」 という新しい考え方が貫かれている。臨産の心得は、妊婦に対して「産は本、病にあら ず」であり、身分の高低に関わらず「天然」の所作だとして励ます一方、民間の産婆( 隠婆)を批判する。
産後の心得では、後産から始まって時間の順序をおって、食事のタブーを否定したり、 洗髪の時期などについて根拠を示しながらの具体的な叙述が続く。ここでも産婆の習俗 がしばしば批判され、例えば産後、一七夜産台に産婦をのせて横臥しない姿勢のままい させる慣習を強く批判している。
立命館大学講師 長 志珠絵