奈良女子大学学術情報センター |
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女 實 語 教 [こがね] 嚢 |
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内題「女実語教[こがね](画像参照下さい)嚢」,見返角書「万代日用躾方大全」。享和2(1802)
年京都菊屋喜兵衛・鉛屋安兵衛刊。不分巻1冊。本文と欄外記事から成
る。 まず,本文について解説する。 本書の本文は,元禄8(1695)年に刊行された『女実語教』(同書は下 巻を『女童子教』と題している)とほぼ同文。『女実語教』とは,中世 以来広く用いられていた平易な教訓書『実語教』『童子教』に倣って, 女子向けの平易な教訓を説いた書。これが本書の本文となっている。し たがって,本書内題のすぐあとに細字で記された次の一文は,本書本文 の性格をたいへん的確に説明していると言ってよい。「此書は,女子の 父母舅姑につかへ夫に従ひ一生身を治る教誡を知しめんが為に,実語教 ・童子教になぞらへ記す」(本文第1丁オモテ)。本書の本文はかなり 大きな字(半丁につき,1行8字前後×5行)で書かれており,本書が女 子の手習いの手本でもあったことがわかる(ちなみに本書本文第5丁オ モテ上欄には女子の手習いの図がある)。なお,本書には落丁があるの で(本文第10丁欠),注意を要する。 次に,欄外記事について解説する。 女性が身につけておくべき教養や女性の日常にとって有用な知識とい ったものをまとめた書物(たとえば『女重宝記』など)が盛ん に刊行されるようになるのはいわゆる元禄・享保期のことであるが,こ の時期以後には,女子用教訓書の欄外にもそのような内容の記事が大量 に組み込まれるようになっていく(たとえば享保元〔1716〕年刊『女大学 宝箱』など)。本書『女実語教[こがね](画像参照下さい)嚢』の欄外記事の背景には,以上のよ うな歴史的文脈がある。 本書は,本文が始まるまでの16丁・本文上欄・巻末に,直接本文とは 関係のない欄外記事を有している。いまそれを列挙すると,次のように なる。 小野小町の図および説明,「伊勢両宮風景図」および説明,「京嵯 峩風景図」および説明, 「御所風」女性・「武家風」女性・「町 風」女性・「妾風」女性・「尼風」女性・「遊女風」女性の図およ び説明, 「四計」の図および説明,「不成就日」,「男女相性之 事」,和歌および図,「女中名字尽」,「尼の名づくし」,「女言 葉づかひ」,「一代守本尊」,「相性つつしむの事」,「女官之称 号」,「女中文書様」,「女諸礼万躾方」,「女中文の封様之事」, 「裁物秘伝」,「進物積様之図」,「十種香聞様口伝」,「楊枝指 仕様秘伝」,「教訓身持狂哥」,「小野小町」(図および説明),「宝 舟因縁」(図および説明), 「女中身持鏡」,「女中所軆鑑」, 「和漢貞女鑑」,「松風村雨之事」,「中将姫由来」,「松下禅尼 之事」,「安養尼」,「土井次郎実平妻」,「妙冲之事」,「令女」, 「節女」,正月・三月・五月・七月・九月のかざり(図および説明), 「十二月倭名并節日由来」(図および説明),「祝言座次第」,「盃 乃次第」,「草の盃」,「下の祝言盃」,「色なをし」, 「此夜い ふまじき言葉」,「婚礼之法式」,「懐胎身持の事」,「三十六歌 仙」,「小笠原流折形」,「女中文封様事」。これらがすべて本書のオリジナルであるとは考えにくく,実際どこかで 見かけたような記事も多い(たとえば,本文24丁ウラ〜25丁オモテ上欄 の「松下禅尼之事」は,明らかに『本朝女鑑』巻2賢明下「松下禅尼」 を下敷きにしている。 『本朝貞女物語』の解題および同書巻1 「まつしたぜんに世のいましめの事」参照)ので,これらの記事の多く は他書からの流用であると思われるが,いまその出典を指摘することは できない。後考を俟ちたい。 これらのうちには,教訓的内容の記事も見受けられるが,女性が身に つけておくべき教養や女性の日常にとって有用な知識といった内容の記 事のほうが圧倒的に多いことは,一見して明らかである。当時の女性向 け教訓書は,たんなる教訓に還元されない豊富な内容を有していたわけ である。 なお,欄外記事を分析に織り込むことで既成の『女大学』観を一新し た画期的業績として,横田冬彦「「女大学」再考」(脇田晴子他編『ジ ェンダーの日本史』下巻〔東京大学出版会,1995年〕所収)があるので, 参照されたい。 神戸大学国際文化学部講師 宇野田尚哉 |
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