奈良女子大学学術情報センター |
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解 説江戸期の代表的な育児書、『小児必用記』の改題書。作者は香月啓益(かづきけいえき、牛山、1656-1740)で自序。
本学所蔵書の体裁は6巻3冊。書名は、題簽が「小児養育草一二(三四)(五六)」、巻一の見返し題では「昼夜必用養育草」、序文では「昼夜必用小児養育艸」となっている。刊記は寛政十(1798)年春。作者の死後も版が重ねられていたことがわかる。
本文はそれぞれ一二巻28丁、三四巻25丁、五巻18丁、六巻19丁。六巻は20丁以下、序、目録、本文19丁からなる『疱瘡心得草』(朱蘭、志水軒)が編纂されている。半丁又は1丁の挿し絵は子供を中心に家族の様子が描かれる体裁。漢字にふりがなつき。江戸、京都、大坂の三書肆による発行。蔵書版書目名広告から判断して、大坂の加賀屋善蔵(浪華書林吉田松根)による編集本であることが類推できる。
巻一は、正徳4(1714)年、越中富山医生、杏三折による漢文序、元禄16(1703)年著者による序、巻一目録(一二項目)、総論と続く。
作者の香月啓益は、貝原益軒(かいばらえきけん)の弟子。筑前出身の儒医でのち京都に出、高名。医学啓蒙書も多く、『婦人壽草』(1706)、『老人養草』(1716)などの作者。
本学所蔵本のうち、本文にあたる『小児養育草』に使用されている挿し絵は『江戸文庫』と同じ。他方、付録部分とでもいうべき『疱瘡心得草』に添付されている挿し絵は「疱瘡神祭る図」「紅梅盛の躰」「無題(高島屋の店先)」「紅の花を作る躰」「大江山の図」の5点、18世紀末の庶民風俗を知る上で興味深い。本書は著者の死後の出版であり、書肆の独自の編纂によるものと考えられるが、本文と付録とではその読者階層は明らかに異なっている。本文『小児養育草』で描かれる子供は男児、上層武家の嫡男層であり、乳母を選び、臣下に傅かれる階層である。一方、添付された『疱瘡心得草』の対象者は、男女富貴身分を問わず一様に罹患する可能性の高いものとして疱瘡という病を説明し、その対処法を説いている。
『江戸時代女性文庫』4(大空社, 1994))に影印本が収録、江森一郎「解題」参照。
立命館大学講師 長 志珠絵