奈良女子大学学術情報センター |
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女五常訓倭織1806刊
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解 説内題「女五常訓」,題簽・見返「女五常訓倭織」,題簽角書「文化補 刻」.刊記は,「享保十四(1729)年酉十一月発行 延享四(1747)年夘九 月再板 文化三(1896)年寅正月補刻」.大坂柏原屋清右衛門・加賀屋善 蔵刊.
五常とは,仁義礼智信という五つの徳のこと.本文は,前書きと,女 性読者を念頭におきつつ五つの徳を一つずつ説明した五ヶ条の論述とか らなる.本書の性格は,序文中の次の一節に,的確に述べられている. 「五常の道ハ,男女ノわかちはなしといへども,男子の見る書ハまな字 にて,其要,女の見るにとをし.あまねく見やすからしめんために,こ れをやハらげて,五常のミちのこころばせをしめし,ならびに絵抄を加 へ,女五常訓と題して,さくら木にちりばむ」云々.
本書の欄外記事は次の通り.(欄外記事に標題がある場合はそれにし たがい,ない場合は表紙に貼付された目録にしたがった).
「農業之図」,「三十三相女躾」,「女五常訓序」,「きぶつのゆ らい」,「南都興福寺由来」,「文章散書常法」,「七夕哥づくし」, 「七夕なゝひめ」(図),「日本女能書」,「唐土女能書」,「女 中鏡草」,「大和女鏡」,「千世見草祝言式」,「教訓文の栞」, 「女妙薬秘伝名方」,「万しミ物おとし様」,「祝言三々九度之図」, 「男女相性の事」,「雛形年代六十之図」,「十二月異名」,「不 成就日」,「願成就日」,「元服漿付嫁取吉日」,「嶋台之図」, 「本式折形之図」.
なお,女子用教訓書の欄外記事をめぐる問題については,K33/125 『女実語教[こがね]嚢』の解題を参照されたい.
ところで,本書の本文部分の著者については,いささか込み入った問 題があるので,最後にその点について述べておく.
本書の本文部分は,一般には,文化11(1814)年に上杉鷹山が孫娘に書 き与えたものとして知られている(『日本教育文庫』女訓篇〔日本図書 センター,1977年〕所収『女五常訓』参照).しかし,遅くとも文化3 年には本書が刊行されていたわけであるから(享保版・延享版は稿者未 見),本書の本文部分が上杉鷹山の手に成ったとは考えられず,恐らく 鷹山はこれを書き写して孫娘に与えたのであろうと思われる.一方,本 書見返しには「益軒貝原先生著」とある.しかし,益軒研究の文脈では 『女五常訓』という著作は知られておらず,本書が益軒の著作であると は考えにくい.おそらく,『女大学』の著者(であると当時考えられて いた)益軒に『五常訓』という著作もあることに目をつけた書肆が,販 売促進のため本書を益軒に仮託したのであろう.したがって,本書本文 部分の著者については不明としておくのが現時点では妥当であると思わ れる.神戸大学国際文化学部講師 宇野田尚哉