創立百十周年記念式典 学長式辞

    

 本日、ここに、文部科学省、京都大学・お茶の水女子大学をはじめ国内の大学等教育研究機関の代表の皆様、また、国際学術交流協定大学であるバングラディシュ ダッカ大学、中国 南京大学・大連理工大学、韓国 梨花女子大学、同徳女子大学の代表の皆様、奈良県選出の国会議員の皆様、奈良県知事・奈良市長、包括的連携協定を締結している町村長の皆様、並びに奈良経済同友会をはじめ近隣諸機関の代表の皆様等、多数のご来賓のご臨席を賜り、本学名誉教授、並びに本学同窓会である佐保会そして卒業生の皆様と共に、奈良女子大学創立百十周年の記念式典を開催できますことは、本学にとりまして誠に大きな喜びでございます。奈良女子大学を代表しまして、心から御礼申し上げます。
  本学の歴史を顧みますと、第二次世界大戦前の40年と大戦後の70年に分けることができます。戦前の40年は奈良女子高等師範学校時代で、1908年に官立学校として文部省により設置されました。現在のお茶の水女子大学の前身である東京女子高等師範学校に次いで設置されたものであります。この地奈良に設置されるにあたり、奈良県と奈良市の官立学校誘致のご努力、また帝国議会議員のご努力で設置に至ったものであります。学校設置から1年後、1909年の5月1日に授業が開始されました。本学の創立記念日はこの授業開始日と定めましたので、奇しくも元号が平成から令和に移行した本年5月1日が110周年の記念日となりました。高等師範学校という教員養成を目的とする学校でしたので、現在の附属中等教育学校、附属小学校、附属幼稚園の前身が設置され、現在まで継続して優秀な卒業生を輩出し続けています。
  戦後では女子高等師範学校から国立女子大学へ昇格するのですが、男女共学と教育機会均等のための一県一国立大学という基本方針の例外という形で実現されました。この昇格は、教職員はもとより在学生、同窓会の方々の並々ならぬご努力により実現したものです。GHQの担当者が、女性の社会進出を推進するのに、男女共学制度により時が熟すのを待つよりも女性学士の確実な輩出が勝る、と判断したのでした。1949年の国立学校設置法により正式に奈良女子大学が設置されるに至りました。新制大学としてはその1年前に、11私立大学と1公立大学の認可がありました。11私立大学中5大学が女子大学であったことに「女性の社会進出を積極推進する考え方」が表れていますが、日本女子大学、東京女子大学、津田塾大学、聖心女子大学そして神戸女学院大学がその5女子大学です。新制奈良女子大学では、ほとんどの期間、文学部、理学部、家政学部(現在は生活環境学部)の3学部で学部教育を行ってきました。この後、1964年に大学院修士課程の設置、1981年に大学院博士課程の設置が認められ、大学院の充実により文字通り教育と研究を行う大学へと成長してきました。
  時が昭和から平成に移行する直前の1986年に、産業界での男女同権を実現すべく「男女雇用機会均等法」が施行されました。これを機会に日本での女性の社会進出が一挙に拡大しました。平成の30年間を経て大企業の重要な役職に50歳代の女性が就任するようになりました。本学は女子高等師範学校の伝統から、社会で働くことを是とする雰囲気があります。総合職として就職し、結婚・出産を経験しながら、卒業後30年を経ても仕事を継続している人の割合が大変多いのです。男女雇用機会均等法施行以前では、卒業生の活躍の場が主として大学などのアカデミア限定であったのに対して、均等法以降ではビジネスの分野で活躍する卒業生が増えてきました。この後開催される記念講演会の講師はその一人で、日本を代表する会社「日本製鉄の技術開発本部フェロー」に就任されています。日本を代表する自動車会社でも材料技術領域長に卒業生が就任するなど、従来男性に得意分野とされたエンジニア分野でも卒業生が大活躍です。
  このように、女性人材育成教育を110年間行ってきました。国内の女性は無論ですが、海外からの留学生を多く受け入れてきました。女子高等師範学校創立の翌年1910年に中国からの聴講生を受け入れたのが始まりですが、現在49大学と国際学術交流協定を締結しています。また160名の留学生が本学で勉学にいそしんでいます。短期留学を含め受入留学生250名という大きな目標を立て、ほぼ達成した状態です。本学の学生数は大学院生を含めて2,500名ですから、その1割の留学生を受け入れています。
  さて令和時代の大学システムを考えるに当たって、今から15年前の2004年に行われた「国立大学法人化」は大変重要な変化です。この激震は現在も続いています。法人化以降6年を1期と数えています。第3期の2016年から国立大学の3類型化が行われました。単純に言いますと、地域・全国・世界と活躍の場の広さで3類型に分けました。既に法人化されていましたので、学長が自らの意思で選ぶことになり、私は全国を選びました。これは本学の学生が全国から集まり、奈良からは10%に過ぎないことを根拠としたものです。この時、本学の特徴をじっくり考えました。結論は、大切なキーワードが奈良と女子と大学という自明な答えでした。「奈良の地で女子教育を大学レベルで行い、もって有為な女性の社会進出を推進し、国力の増進を図る。」と本学の機能を纏めました。
  2017年8月に、教員需要の減少期における教員養成・研修機能の強化に向けて(国立教員養成大学・学部、大学院、附属学校の改革に関する有識者会議報告書)が提出され、同時期に国立大学の一法人複数大学方式のアイデアが中央教育審議会で出されました。一法人複数大学制度は私立大学では認めている制度ですが、これを国立大学にも適用して、今までよりも柔軟な経営を行おうというアイデアです。なお、一法人複数大学制度は今まさに2019年の国会で審議中です。奈良教育大学と本学が一法人複数大学制度を活用して、教育における機能強化と新機能の発現を目指しています。単に両大学が協力するだけでなく、学生が奈良の地で学ぶことのメリットを実際問題として享受するために、奈良先端科学技術大学院大学、奈良工業高等専門学校、奈良国立博物館、奈良文化財研究所との間に教育のネットワークを巡らす構想も持っております。
  私の考えですが、国立大学は法人化の前後で、共同体から機能体へと変わりました。共同体では富める時も貧しき時も平等に分かち合うのですが、機能体では各大学の機能による分業体制が基本となります。そして機能発現に対する評価の良し悪しによって格差が発生します。このように考え方が変わっても、未来の時代に活躍する女性人材の輩出を本学の変わらない使命と心得ています。
  最後になりますが、本学110周年に当たりまして多額のご寄付を頂きました皆様に感謝申し上げます。学生寮の新設等に使わせていただきます。また、本日ご臨席賜りました皆様の、永年にわたる本学へのご支援に深く感謝しますとともに、高等教育・研究機関としての奈良女子大学の歩みに対して、今後とも変わらぬご指導とご鞭撻を賜りますようにお願いいたしまして、わたくしの式辞といたします。

 令和元年5月18日 奈良女子大学長 今岡春樹