令和元年度奈良女子大学大学院学位記授与式 学長式辞

    

 博士前期課程169名、博士後期課程7名、論文博士1名、合計177名の大学院修了生の皆さん、ご修了おめでとうございます。今年は新型コロナウイルスの影響でこの式典への参加者を限定しました。私達奈良女子大学の教職員一同は、各地で本日のご修了をお喜びのご親族の方々に、心よりお祝いを申し上げます。
  「大学は、学術の中心として、高い教養と専門的能力を養うと共に、深く真理を探求して新たな知見を創造し、これらの成果を広く社会に提供することにより、社会の発展に寄与するものとする」これは、平成18年12月に改正された教育基本法における大学の役割です。昭和22年に施行された旧来の教育基本法にはこの項目はありませんでした。今から13年前に、大学が「奥の院」から現実に引き出された瞬間です。翌年平成19年から日本では人口の減少が始まっていますので、「大学よ、表に出てこの人口減少の危機に対処してくれ」というメッセージです。このメッセージの影響を強く受けたのが、皆さんの世代です。学問が学問として自立していたよき時代は過ぎました。
 日本では現在50%の人が大学に進学します。男女比は大きくは違いません。大学院はまだ少数派です。男女25名ずつ同数の50人クラスで、大学院博士前期課程へ進学するのは男性2名、女性は1名です。真のエリートとしての活躍が期待されているわけです。
 博士前期課程の修了者は、研究を主体的に行う方法を身につけたと思います。博士後期課程の修了者は、今後学者として大成できる可能性があるというレベルに到達しました。皆さんは「学問」の入り口に入られました。学問は人類がもつ最も崇高な能力です。その本質は、新たな発見あるいは新たな提案です。
昨年ノーベル化学賞を受賞された吉野彰先生は「無駄なことを沢山しないと新しいことは生まれてこない」と発言されています。吉野先生は本質をズバリ理解する力と調べつくすという馬力をお持ちです。今回のノーベル賞受賞につながった特殊な炭素繊維が身近に有ったという幸運があります。「幸運は無駄なことを沢山した人に微笑むようです」。
  学問の遂行は本来個人的な営みですが、近年は多くの人が協力して推進するタイプも増えてきました。協力においては自分自身の専門性の理解と共に、異分野であっても協力者の専門性の理解が不可欠です。その意味で大学院時代に異分野の友人が出来ていると最高です。皆さんの使命は、価値のある論文を通じて社会に貢献することです。そして学問のすばらしさを後輩に伝えていくことも重要です。
 最後になりますが、奈良女子大学大学院人間文化研究科において切磋琢磨された皆さんが、知能・品格ともすばらしい指導者に成長されることを祈念してお祝いの言葉といたします。 

 令和2年3月24日 奈良女子大学長 今岡春樹