奈良女子大学 |
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板絵 智光曼荼羅 元興寺蔵 重要文化財 |
智光曼荼羅図 板絵彩色 額装 縦217.0cm 横195.0cm 本図は、極楽坊本堂内陣の厨子背面に奉安されていたものであり、横に板を連ねて画面とし、漆下地としてさらに黄土を塗り、その上に岩絵具を用いて阿弥陀如来を中心とした聖衆と極楽浄土世界のようすを細密に描いている。 極楽坊は、天平時代の元興寺三論宗の学僧であった智光法師の住房と伝えられるところで、慶滋保胤が永観二年(984)に撰述した『日本往生極楽記』には、夢中において極楽浄土のさまを感得するに至った智光と頼光にまつわる説話が記されている。智光の住房に極楽浄土の絵があったことから、極楽坊の名が生じ、平安時代後半からは百日念仏講が営まれるなど南都における阿弥陀浄土信仰の中心をなした。原画は中国・唐代に流行した阿弥陀浄土変相図とみられるので、本図の宝地段の左右の橋上に描かれる二僧はさきの説話をもとにして書き加えられた智光と頼光の姿とみられる。 このたびのデジタル近赤外線撮影画像は彩色下になされた下書き線を見事に捉えており、細緻な文様の古式なようすや菩薩衆のもつ楽器などの細部が判然としたばかりでなく、中尊や諸菩薩の描線にはなかなかに優れて力強いものがあり、豊かな頬や弧線の大きく張った眉、あるいは切れ長の目にみる理知的な表現など、鎌倉時代風をよく襲った絵師の手になるものであることが判明した。したがって本図の制作も、治承兵火復興後の天平回帰の流行によったことが推察され、南都仏画の深い伝統をよく示すものともなった。 元興寺文化財研究所 高橋平明 |