釈迦十六善神像図

一幅  絹本著色

金峯山寺所蔵

  画面中央に金色の釈迦如来像。その左右には白象に乗った普賢菩薩と獅子に乗った文殊菩薩とがつきしたがっている。画面下、文殊菩薩の前方にいるのは玄奘三蔵。唐時代(7世紀)西域を旅して、唐の都・長安に大部の経典をもたらした。経典を入れた笈を背負う姿で描かれている。また普賢菩薩の前に位置するのは深沙大将。玄奘三蔵の旅の途中に現れた護法神で、胸に髑髏の瓔珞を付け、腹部に小児の顔を現ずる姿を示す。両者の背後には法涌菩薩と常啼菩薩さらに十六善神が左右に居並ぶ。彼らは大般若経を守護する護法神で、大半が甲冑に身を包み、なかに鬼形の者も含まれる。
  釈迦十六善神像は、玄奘が訳した『大般若経』六〇〇巻を転読する儀礼(般若会)の本尊として掛幅画が奉掛されたり、あるいは『大般若経』を納める経箱や厨子に描かれたりした。前者の遺品として兵庫・聖徳寺本、後者の遺品としては愛知・七寺蔵経箱漆絵や奈良国立博物館蔵黒漆般若経厨子扉絵などがある。これらはいずれも平安後期に遡る。中世以降の遺品も少なくない。
  本図に描かれた十六善神は、いずれも動きの少ない落ち着きある体勢で、伝統的な色調で統一的に彩られている。その点では古様を示すが、金泥で塗られた釈迦は額が広く鼻梁線を明示した新様の表現を採り、着衣に施された截金文様も細かく固い。よって本図は室町前期(15世紀)作と考えるのが至当だろう。保存状態に恵まれた優品である。

釈迦十六善神像図

釈迦十六善神像図