融通念仏縁起絵
安楽寺所蔵
(奈良国立博物館寄託)
絹本著色 92.6cm×44.6cm
融通念仏縁起絵の掛幅本として珍しい、鎌倉時代(14世紀)の作品。融通念仏縁起絵は正和三年(1314)に上下二巻からなる絵巻形式が成立し、鎌倉時代から室町時代にかけてさかんに転写本が制作された。融通念仏宗の開祖である良忍(1072~1132)の事績や念仏の功徳・利益を描いたものである。この作品は一幅の画面に、絵巻の上下巻から選び出した六つの場面を配している。なかでも画面中央には毘沙門天の念仏勧進に応えて諸天・冥衆・神祇が参集し、融通念仏を賛嘆して名帳(大念仏に加入したものの名を記した帳簿)に加名する場面を描く。筆致は丹念で、金泥を交えて明るい彩色を施す着衣、角ばった輪郭をもつ土坡の表現が奈良・大蔵寺本聖徳太子絵伝など鎌倉時代末期の掛幅本祖師絵伝や社寺縁起絵に通じるという意見がある。南都伝来の融通念仏縁起絵として大変貴重な作品である。